書体デザインの新たな夜明け! 「justfont」が台湾に巻き起こしたムーブメント

2010年に突如として登場した書体デザインのベンチャー企業「justfont」。彼らが行った書体デザインの伝道活動によって、台湾のデザイン業界に書体の新たなムーブメントが巻き起こりました。

justfont設立以前の台湾

コンピューターでデザインすることが一般的になった2000年代。モダンなデザイン書体から、活版印刷のころに使われていた伝統的な書体までがデジタル化され、フォントデータとして流通していました。

しかし台湾ではフォントを購入するという習慣が根付いているとは言い難く、コピー版のフォントデータが流通していたり、パソコンに標準搭載されている個性のない書体でデザインされていることが多かったそうです。そのためか書体を開発・販売する台湾企業は、より大きな市場を求めて日本やアメリカに進出し、国外での営業に重きを置いてきました。

文字のある台湾の風景

また、当時は古い形式の書体が多く、現代のデザイナーが使いたくなるような書体が少なかったという意見も現地のデザイナーからしばしば耳にします。

書体デザインの伝道活動

そんな書体デザイン産業に厳しい時代であった2010年にjustfontがスタートしました。

justfontのメンバー(justfontより引用)

彼らは「更好的文字風景(日本語訳:より美しい文字のある風景を)」をスローガンに掲げ、台湾の日常生活で見かける文字をより良くするという理念のもとで書体の開発を進め、当時書体に意識があまり向いていなかった台湾人に「書体デザイン」を伝道する活動も始めます。

その活動内容はブログやYoutubeチャンネルなど自社メディアを通じての情報発信、書体デザインに対する認識を深めるイベントの開催や、書籍の制作なども行なっています。

加えて、一方的な情報・専門知識の提供だけではなく、facebookに設けた書体ファンが集まるソーシャルコミュニティー「字嗨(ズーハイ)」の運営も行っており、10万近くのアカウントが参加するなど大変賑わっています。そして特に興味深いのは、書体デザインを学ぶことができる短期スクール「中文字型課程」を開設し、justfontのスタッフが直接指導していることです。

このような地道な伝道活動が、後に台湾のデザイン業界に大きな影響を及ぼし、次第に書体デザインに興味を持つ学生や若いデザイナーが増えていくことになります。

巻き起こしたムーブメント

彼らが行なった伝道活動の結果、書体に興味を持った若手デザイナーが増え、またjustfontで書体デザインを学んだ後に自身の書体デザインを発表する優秀なデザイナーが続々と現れます。

「拳體」(溫珩如さん制作)

例えば、justfontでインターンとして書体デザインを学んだ溫珩如さんが制作した「風體」と「拳體」、書体デザインスクールで学んだ施博瀚さんの「凝書體」は、台湾で最も権威あるデザイン賞「ゴールデンピンデザインアワード」を受賞しています。

「台灣道路體」(湯六さん、justfont制作)

また「厚道體」で、日本の「モリサワタイプデザインコンペ」の和文部門でファン投票1位を獲得した林芳平さんもjustfontの書体デザインスクールを卒業しています。そして今、非常に話題となっている台湾の道路標識などの書体をモチーフに制作された「台灣道路體」のデザイナー湯六(劉獻隆)さんも、justfontから書体のデザインを学んだようです。

justfontが台湾社会に与えたもの

このように台湾のデザイナーに大きな影響を及ぼしたjustfontですが、自身も2015年に新作書体「金萱」の制作資金をクラウドファンディングサイト「FlyingV」で募集したところ、なんと7,662人もの援助によりおよそ2,600万台湾ドルを獲得。先程あげた溫珩如さんがデザインした書体「風體」と「拳體」も、台湾のクラウドファンディングにて、延べ1,690人の支援のもと合計450万台湾ドルを獲得しています。

このように、それまではフォントにお金を払う習慣のなかった台湾社会が「書体デザイン」に注目し、支援という形でも大きなお金が集まるように変化しました。これにより開発資金が十分にある大手書体デザイン企業だけでなく、個人のデザイナーがインディペンデントな書体を制作し、販売することが可能になっています。

これも「台湾の文字のある風景を良くしたい」というjustfontの理念に共感し、自国を愛し、その文化を成熟させようという台湾人の情熱があったからではないでしょうか。